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恐怖省

 グレアム・グリーン著「恐怖省」

 第二次世界大戦のロンドン空襲のさなかの物語です。
 グレアム・グリーンはイギリスの代表的な作家で、早くから人気作家でした。
 カソリック者、共産主義者、そして英国情報部の元諜報部員でもありました。
 007シリーズの作家イアン・フレミングとは入庁時期もほぼ同時の同僚だったのですが、グリーン本人はMI6局員が主人公の話「ヒューマン・ファクター」では007的世界を皮肉っています。その中にはなりそこないのボンドみたいな青年も出ていきています。

 自作についてグリーンは「娯楽物(エンターテイメント)」「本格物(ノベル)」と分けていまして、「恐怖省」は 「娯楽物」に入ります。まだ数作しか読んだことはないのですが、両方の違いはあまりないようです。読みやすく、ドラマ性がある作品です。また、描写がとても映画的で、人々が生き生きと動いているので読みやすいです。
 「恐怖省」が著されたのは1943年、グリーンがMI6を退庁した年になります。

 
「背の高い、猫背の、やせた男で、黒い髪に白いものがまじり、細面の顔は彫りが深く、鼻梁はこころもち曲がって、口元には異常に鋭敏な感受性のこまやかさが感じられる」
 戦時のロンドン下で暮らす独身者、アーサー・ロウは、(ジェレミー・ブレッド氏イメージ?)破壊されていく街の中で「自由諸国の母の会」という団体の慈善市にたまたま立ち寄り、ケーキの景品を引き当てる。


 灯火管制の元で、度々空から爆弾が落ちてくる。市民は避難所で夜を越さなくてはならない。でも朝には地下鉄で人々は出勤し、パブでは杯を傾けます。
 

 グリーンの筆は、アーサーの背中にじっと張り付き、彼の思考、見聞きしたこと、経験したこと、変化などが細かく細かく描かれています。←実は読んでいく上でとても重要なポイントです!


 英国の国家機密を奪ったナチスのスパイ組織の暗躍に巻き込まれていくのですが、実は真実は明確に語られていません。ただ「東から来た」美しい兄妹とアーサーが出会うことで、かの敵国だと予想させる位で。陰謀物というよりも、むしろ全てを無くして影のように生きる男が、息を吹き返して新しくアイデンティティを得ていくのが主軸かなと思いました。

 空からドイツ軍の砲弾が降りそそぐ日々と、一人の男がはまり込んだ陰謀の対称が鮮やかに浮かび上がります。 陰謀はあるかなきか、目に見えない糸のように、アーサーを縛り誘導していきます。
 アーサーが自分を取り戻していくにつれて死体も増えていきます。
 また、途中で物語世界が180度変わる局面があります。アーサーにひっついて読み進めていくとかなり足元すくわれてしまいます。


 アーサーはかつて病苦に苦しむ妻を見かねて手にかけました。
 同情論から刑を受けず、精神病院に入らされるものの、もともとの病人ではないのですぐさま退院。しかし友人も去り、戦時下に仕事も無く、賄い付きのアパートで財産収入に頼って暮らしています。
 彼は豊かな子供時代を過したのか、郷愁と「美しいもの」「暖かで人間的なもの」への憧れと、生きることへの諦めが交錯しています。

 だからこそ、アーサーは、善行に拘ります。生きている証のように。

 愛するもの全てを無くし、追憶と憧れだけで生きてきた骸のような状態から、生き直すことを選んだアーサーの見えるもの。そこに「恐怖省」という言葉が重なってきます。
「恐怖省」とは何なのか。本当にある機関なのか。幻なのか。

 そこに書かれた答えは、物語の心臓部であり、グリーンの小説によく顔を出すテーマだと思いました。
 グリーンは「愛情」について深く考えていた人だったのだろう、と感じます。
 これからも読み進めていきたい作家さんです。
 
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プロフィール

高砂 舟

Author:高砂 舟
twitterもやっています。
@takasago_fune

偏った本読みと太極拳が趣味です。低レベルですが腐です。
今はグレアム・グリーン継続中。星野道夫さん、宮澤賢治氏、藤沢周平氏をよく読んでいます。
植田正治氏の写真も大好物。

大人計画とグループ魂とっかかり中です。

宝塚は長く観ています。観劇回数は少なくとも、おばあさんになるまで細く長く見ていきたい所存。

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