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河瀬直美監督「あん」

河瀬直美監督作品「あん」を観てきました。
ドリアン助川さんの原作を先に読んでいまして、あらすじは頭に入っていました。
原作がとても素晴らしかったので、河瀬監督がどう撮られていくか気になっていました。

「これまで、自分とまったく関係のない人たちだった。それなのに今、彼らは内側に入り込んできて、なにかをささやこうとしたり、困ったような顔で見つめてくる」

生気を帯びた言葉の美しさが印象に残ります。


余談ですが、私の住んでいる街に「こぶし館」という建物があります。
教会のような小さいホールと台所、寝室等居住施設がある、山を背にしたちょっと変わった間取りの建物です。
普段は無人で、玄関も空きっぱなし。
写真展やお芝居の公演など時々催されています。

久松山を背にして、風が吹くと木々が葉を揺らすのが窓から見えるのが美しく、「夢の住居」でした。

「こぶし館」の2階の目立たない場所に書斎があります。
ハンセン病の歴史や、療養所で暮らされている方の詩集などが所蔵されていました。
「こぶし館」は元々は故郷から隔離されたハンセン病の元患者の方が、宿泊できるために作られた施設だそうです。
私にとっての「あん」は、原作とこぶし館の風景を思い浮かべながらの鑑賞になりました。


小さいどら焼き屋を営む千太郎の元に、ある日訪れた老女の徳江さん。
時給も半分で良いので働きたいと申し出る。
最初は断った千太郎だが、常連の少女、ワカナの一言と徳江さんの残してきたあんの抜群の美味しさを知り、雇うことにする。


映画でも原作でも好きだったのは、仕事の楽しさを描いている事です。
客足の遠のいているどら焼き屋で、どんな風においしい餡を作っていけば良いか、千太郎が徳江さんの教えを乞いながらが試行錯誤していきます。
努力が実って、少しずつ賑わっていって、徳江さんもあん作りから接客に移って行って、常連さんと会話も弾んで明るい熱気が満ちていく。

あん作りは完璧な徳江さんが、皮作りには四苦八苦して、皮担当の千太郎さんを思いやる場面も可愛らしかったです。

常に変わらない森羅万象と対照的な人の営みは、「働く」ことだと、河瀬監督もドリアン助川さんも捉えられているのかもしれません。
お店から離れた徳江さんが、一気に老け込んだのも分かる気がします。

早くに明らかにされますが、徳江さんはハンセン病患者で、ワカナ位の少女時代に移されて、ずっと療養所で暮らしていました。
結婚も妊娠も、死も療養所で済ませました。


噂が広まったのか、どら焼き店から客足が途絶える場面も、そっけない撮り方でした。
らい病だ、とはっきり指摘する千太郎の家主さんはまだストレートで、
人が偏見から何かを忌諱する瞬間は、本当にあっけないものなのかもしれません。
ちょっと妨げになりそうなもの、ストレスになりそうなものから目を離してしまう。

私がハンセン病政策に感じることは、日本社会の無視と無責任です。
患者さんを隔離するのが国策だった時代もありました、治る病気だと分かったのに、引き続き隔離も綴られていました。若い時分に故郷から離された人達が社会の営みに戻ることも叶いませんでした。

たとえば患者の方の苦難を描いた映画の場面に涙しても、同じ場所に泊まりたくはない、と感じてしまう、普通の人々の心理の流れがあるのではないでしょうか。
それに抵抗するには、強い意志と曇りのない目が要ります。
目が曇ったままでも生活はできますが、それによって振り落とされる何かは少なくない。

ですが、映画も原作も、「あん」は、「こういう惨いことがあった」という怒りや悲しみではなく、生を全うした人の喜びや、日々の暮らしを描いていっています。人の尊厳への視線があります。

徳江さんの樹木希林さん。
好きな女優さんですが更に好きな人になりました。
その人になりきる、その人の上に流れる時間もともに表現される。巧さを超越して、
徳江さんは淡々としていながら、おばちゃんでコミカルで。
悲しみも、全て受け入れていった人が、「働きたい」と願った姿に、最後の好奇心や「やる気」が感じられて愛おしかったです。

永瀬正敏さんの千太郎。
重罪を背負っている彼ですが、お店や自室を清潔に保っている事が、彼自身の個性を感じさせられます。スクリーンを通して感じたのですが、調理する動作が品があり、美しい!
すごく個人的な感慨なのですが、永瀬さんのファンになった「隠し剣・鬼の爪」から11年の久々の地元映画館上映でした。
「あん」は延長が決まり、映画館も普段よりは埋まっています。これはすごい事なんです。映画ファンの多い都会のスクリーンではないですから、自然と映画に引き付けられた人が多いではないでしょうか。

原作を読んで、自然に「千太郎は永瀬さん」と思えて、それは間違いなかったです。
これで、新しく永瀬さんのファンになる方も多いと思います。
これからも様々な役を演じてほしい、と心から思います。


若菜役の内田伽羅さん。
あの年頃の女の子って、時々膨張した感情でダルマ状態になって、外見はぼうっとしてているように見える子もいますね。
原作の若菜ちゃんはいい子のイメージばかりありましたが、伽羅さんの存在感ですごくリアルに肉付いた気がします。
大人になることで、どんどん芽吹いて行って聡明になる人ではないかなあ。


少ない場面の登場でしたが、若菜の先輩役の大賀さん。
三月に見たお芝居「結びの庭」でもガッチリ観たのですが、やっぱり感じの良い演技されます。若いけれど引きだしを多く持っている人だと思う。これから期待です。

オーナーの浅田美代子さん。
実は原作では邪悪ささえ感じる人だったのですが、(クワイエットルームにようこその西田おばさん並み)浅田さんだと、世話するものが多すぎて、あらゆるリスクを避けようとしている女性のように思えました。
もしかしたら、旦那さんの支えを無くして、ばたばたと忙しく過ごしている人なのかもしれません。


療養所は、建物も道も剪定する人が老いていったためか、緑に埋もれそうなのに泣けましたが、緑の一つ一つが、亡くなっていかれた患者さんの骸と地続きにあるのですよね。

徳江さんが、千太郎と若菜の中に大きなものを遺していったのも、2人の涙で伝わりました。千太郎が、悲しみから一つの光明を見つけ出したのも。
千太郎の涙が忘れられなかったです。
中の人の永瀬さんの演技と共に泣けたのは初めてだったかなあ。(今までかっよい、かっこよいばっかりだったのでした)


最後に先に繋がる希望があったのが素晴らしかったです。
木々が太陽からエネルギーをらって生きていくように、人は楽天性によって前に歩いていくのかもしれません。
徳江さんの面影をみて、ああ自分も人生の折り返し地点についているのだなあと感じました。
せめて、曇りのない目を持って生きていきたいですね。
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プロフィール

高砂 舟

Author:高砂 舟
twitterもやっています。
@takasago_fune

偏った本読みと太極拳が趣味です。低レベルですが腐です。
今はグレアム・グリーン継続中。星野道夫さん、宮澤賢治氏、藤沢周平氏をよく読んでいます。
植田正治氏の写真も大好物。

大人計画とグループ魂とっかかり中です。

宝塚は長く観ています。観劇回数は少なくとも、おばあさんになるまで細く長く見ていきたい所存。

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