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妖魔夜行 ~闇への第一歩

角川スニーカー文庫 山本弘

10月に新作が出版されると、twitterで目にしてあわてて購入しました。

高砂が大好きだった小説シリーズです。

現代日本の中で人間にまぎれて生きる妖怪たちが主人公。
この世界の妖怪たちは「人の想い」によって生まれてきます。
鬼とか座敷童子などの伝承や都市伝説、あるいは何かのこだわりなど、さまざまな想いの形態から生まれてくるのですよね。
この設定は今でも妖怪世界のノーベル賞級のアイディアだと思います。


山本弘さんは、旧シリーズのメインライターさんというのも嬉しい。今や星雲賞作家さんですね。

読んだところ、基本的設定は変更がなく、1990年の妖魔夜行の時間の針が進んだ世界になっていました。妖怪はまだ人間たちには知られていないようです。

亜希は高校一年生の少女。彼女はクラスメイトの蓮也に恋をした。
彼女の精一杯の努力の末、2人は結ばれた。
しかし、「幸せ」に浸る亜希の香りは、人ならざるものを引き寄せる。
「幸福な人間」を恨み、爆死にいたらせる妖怪・バッドエンドが彼女を嗅ぎつけたのだ。
蓮也は神楽坂のバー「深海」に亜希を誘った。そこにはバッドエンドを追う者たちが集っていた。蓮也は打ち明ける。自分も、「深海」に集う仲間達も、バッドエンドと同じ「妖怪だ」と。

亜希は何もないところでよく転ぶようなどじっ子で、容姿も冴えない眼鏡娘。
妖怪として生きることになるのですが、その決断もあっけらかんとしています。

バッドエンドもかつては人間でした。

人である亜希とバットエンドを妖怪化させるアイテムとして「奇殻」があり。これが唯一の新設定ですね。



読み終えて思ったのですが、
妖魔夜行は、やっぱりジュブナイル=ライトノベルです。
現代日本が舞台で、妖怪たちは大人設定の人も多いので、つい読者年齢も高めに想像してしまうのですが。基本は少年少女世代に向けたものだと思います。


妖魔夜行は現代日本社会が舞台で、不幸の手紙やパソコン通信、アニメや特撮など、時代に平行したテーマが描かれてきました。最初は1990年代ですので読み返すと古いときもあるのですが、妖怪という斜めからの視線で切り取った現代社会の図は面白かったです。

この度の主人公は、10代の少女亜希。
旧作の摩耶ちゃんと同じ世代ですが、少女の目を通しての日々の描写は、その時期をはるか昔に過ぎてしまった読み手には新鮮でした。
その点でも「原点に戻った」作品だと思います。Hしてしまった亜希ちゃんと蓮也くんに対して、妖怪仲間が怒りまくる所とか、父親世代の山本さんの見方が出ているようで面白かったですね。

彼氏の蓮也くんはまだ一面しか見せていないし、蓮也くんの妹になる鈴花の活躍もこれから。鈴花と亜希ちゃんとの数ページに渡るガールズトークはああ、わかるわかると頷いてしまいました。山本さん、よく観察されている!

バッドエンドと亜希、2人が簡単に、人間を捨て妖怪になることを決めたのは、それまでの日々が苛烈なものだからでした。2人とも、いじめの被害者というトラウマを抱えていました。人を人とも思わない扱いを受け、自分を否定して世界全てを憎む日日を過ごしていました。

バッドエンドさんが屈して亜希が抜け出したのは、恋をしたからと、光のあたるところに行きたい、と願う気持ちがあったからでしょう。バッドエンドさんが年が上で、社会に出た後低収入で夢も持てなかったという係わりはあるかもしれません。

この数年で、光の当たった感情は妬みの感情ではないでしょうか。ネットの上では誰かが誰かを妬む叫びの声がたくさん転がっています。妬みの感情はプルトニウムのように消えることはありません。「不幸になってしまえばいい」こういう言葉を、するっと出してしまうのが妬みの念です。今の時代、妬みほど強力な感情はありません。持つ側に心身を消耗します。

「相手だって努力している」とかそれを勇める言葉はあり、真実にはなるのですが。でも、そういう慰めって、自分は努力をしていないので駄目だ……と追いつめる原因になりますので、あまり好きではないです。頑張っていない人はいないと思います。

亜希ちゃんは、自分を変えたい、少しでも前向きになりたいとあがく気持ちと、蓮也くんに恋をしたタイミングが上手く重なったのですね。
でも、タイミングが重ならず得たいものも得られなかった人も少なくはないと思います。
「妖魔夜行」の場合、自己を肯定できた亜希ちゃんも、妬みにのまれたバッドエンドさんも、妖怪化の道を選んでいるわけで……。亜希ちゃんのこれからが気になります。

ライトノベルを読む子達は、蓮也くんのような彼氏やかなたのような友人に恵まれず、「深海」「うさぎの穴」のような、学校や家庭とは違う身を寄せる場もなかった子も少なくないと思う。別世界に誘ってくれる小説やヒーローたちは逃げ場になっていました。
昔「うさぎの穴」(と八環さん)の物語にのめりこんだ私は思います。


今後もぜひ続いていってほしいシリーズです。
角川ホラー文庫など、別ノベルでも見てみたいかもしれません。
挿絵が一枚のみというのは、少しさびしかったですね。次回は「深海」キャラのイラストを見たいなあと思います。


(余談ですが)

私自身は、努力するということは、自分の可動域を増やすことだと思っています。
考えでも、実際の行動でも。劣等感に押しつぶされてまったく動けなくなっている人はたくさんいいます。そこから少しずつでも、自分にとってより良い環境を求めていくのも努力のひとつではないでしょうか……?
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プロフィール

高砂 舟

Author:高砂 舟
twitterもやっています。
@takasago_fune

偏った本読みと太極拳が趣味です。低レベルですが腐です。
今はグレアム・グリーン継続中。星野道夫さん、宮澤賢治氏、藤沢周平氏をよく読んでいます。
植田正治氏の写真も大好物。

大人計画とグループ魂とっかかり中です。

宝塚は長く観ています。観劇回数は少なくとも、おばあさんになるまで細く長く見ていきたい所存。

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